あの時のあなたへ。
一緒に暮らし始めたころから、
あなたは、片付けがあまり得意ではありませんでしたね。
「私は、片付けが上手にできないの」あなたは、よく言っていました。
読んでいた本、爪切り、ハサミ、通帳、カード、食器、、、
どこかにしまうのはいいけれど、
本棚、台所、クローゼット、衣装ケース・・・、
あなたには「ひとまず隙間にモノを押し込む」癖があって、
一緒に探しても見付からないことは、よくありましたね。
でも、それほど気にしなかった。
片付けが上手くできないことなんて、よくあることだから。。
『見付からないから』⇒『新しいものを買う』
『使い終わったら』⇒『また隙間に押し込む』
こんな繰り返しで、私たちの部屋は、次第にモノが増えていきました。
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私はあなたに言ったことがあります。
「もう少し、整理整頓ができないと、モノに埋もれてしまう。
いらないモノがどんどん増えると、私たちの手に負えなくなってしまう」と。
そのとき、あなたは言いました。
- 「私は片付けができないから、しょうがない」
- 「物が多すぎるから、片付けができないだけ」
- 「あなたは片付けが上手いから、教えてほしい。そうすれば、私も片付けができるようになるから」
私は、あなたの言葉に、まだ何も感じませんでした。
そして、あなたに言いました。
- 「似たものは、同じところにまとめてみれば、良いんじゃないの?」
- 「床に何か落ちていたら、何かのついでに拾って、しまうことにすれば?」
- 「休みの日にまとめてやろうとしても、きっと上手く行かないよ。」
- 「”ひとまずどこかに押し込む” ようなことは、しないほうが良いと思うよ。きっと見付けられなくなるから。」
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それから、一月ほど経ちましたが、部屋の様子は、あまり変わりませんでした。
あなたも、片付けることに、あまり気乗りしていないようでした。
私はあなたに聞いてみました。
「片付けられるようになりたかったんじゃ、なかったの?」
あなたは、私の目を見つめ、不安そうな顔をして言いました
「片付けられるようになりたい。でも、私にはむり。片付けるのが上手くないから。」
「きっと、分かりやすく教えてくれれば、できるようになると思うの。」
私は考えました。
もしかしたら、私の片付け方や伝え方は、間違っているかもしれない。
- どうすれば、簡単に片付けることができるのだろう?
- どうすれば、彼女にもわかってもらえるのだろうか?
行きつけの書店で適当な本を見つけ、一通り読んでから、あなたに言いました。
「やっぱり、『何かのついで』に、少しずつ、『決めたところにしまう』ようにすれば、いいみたいだよ。」
「まとめてやろうとしても、途中でやる気がなくなっちゃうよね。自分だって嫌になるから。」
「ほら、片付け方の本を探してきたんだけど、簡単にできそうなやり方が書いてあったよ。」
ーーー
あれから、数か月が経ちました。ただ、あなたの様子は変わりませんでした。
今まで通り、部屋の隅にゴミをまとめて積み上げ、
使ったモノを、クローゼット、本棚、空き箱、、、身近な場所に「ひとまず」押し込み続けていました。
私はあなたに聞きました。
「あなたは、片付けられるようになりたかったんじゃないの?」
あなたは、私をじっと見つめながら言いました。
『どうやったら、上手く片付けられるようになるのかな。。私は、できないダメな人間なのかもしれない。』
「大丈夫、片付けられなくても、大したことじゃないよ。でも片付けられたら、きっと気分も良くなるよ。」
「ほら、この前も旅行に行ったとき、”広くてきれいな部屋は気持ちいいね!”って、言っていたよね。」
不安そうなあなたを、私は抱き止めました。
『そう言ってもらえて、良かった。』
あなたは、私の胸の中で、目を閉じて、呟きました。
私は、彼女の不安な気持ちを満たさなければいけないと感じました。。
部屋の片付けなんて、大したことじゃない。
急がず、ゆっくり「そのうちできるようになる」くらいの気持ちで待っていれば良い。
彼女にその気があるのなら、そのうちできるようになるだろうから。と。
ーーー
1年が過ぎました。。
ただ、部屋の様子は何も変わっていませんでした。
いや、モノは更に増え、床には大小様々な物が散乱していました。
まるで、「”破産” された、あの ご家庭の雰囲気」と同じじゃないか、、
引っ越しのアルバイトで入ったことがある、ある二軒のお宅と重なりました。。
もう、必要な物がどこにあるかなんて、見当もつかない。
人なんて呼べるような状況ではない、そんな有様でした。
私は、一呼吸をおいて、彼女に言いました。
- 「どこに何があるのか、もう全然わかんないね。」
- 「片付けは、少しはできるようになった?」
彼女は言いました。
- 「一年前と同じじゃないよ。人は、少しずつ変わるものだから。」
- 「変わらない人なんていないよ。私は頑張っているよ。」
- 「私が悪い人じゃないってこと、私が頑張っていること、、あなたが一番よく知っているよね。。」
私は言いました。
- 「確かに、一年前と同じじゃないのかもしれない。ただ、あんまり変わってない気がするよ。」
- 「モノは前より増えているし、どこに何があるか、見当がつかない。」
- 「『見つからないんだったらしょうがない』と言って、新しいものを買ってばかりいる。これはあまり良い状況ではないと思うよ。」
- 「あなたは、片付けられるようになりたいの? それとも今のままでいいの?」
- 「無理なことをやったって、しょうがないからね。上手くできないんだったら、諦めも大切だと思うよ。」
彼女は言いました。
- 「人にはね、しつこくしつこく、、何度も何度も言わないと、分かってもらうことなんてできないの。」
- 「これは子供だって同じ。少し言っただけで、できるようになんかならないの。」
私は「子供だって同じ」といった彼女に、大きな違和感を感じました。
あなたは、もう子供なんかじゃない。これから成長していく、小さな子供なんかじゃない。。と。
- 「一年たっても、あまり変わらないんだったら、さっさと止めちゃったら?」
- 「すごく楽になるよ。このまま続けても、できるようにならない気がする。」
- 「株の損切と同じだね。少し怖いけど、やってしまえば楽になる。」
- 「よく考えると、私があなたに教えることなんて、できないよ。」
彼女は言いました。
- 「私がちゃんと分かるように教えてくれれば大丈夫・・・」
- 「一緒に片付けをしてくれたら、きっとがんばれる・・・」
- 「一人だけで頑張るのは、本当に辛いから、助けてほしい・・・」
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さて、この結末はどうなったと思われますか。
ここからは私の見方です。
彼女は、この状況を利用して、彼女自身に対する相手の気持ちを確認していたように感じています。
つまり、「片付け」ができるかどうかなんて、彼女にとって、大きな問題ではありませんでした。
彼女は最後に言いました。
「もう、私への気持ちは変わっちゃったんだね。私は何も悪いことをしていないのに。」
「私よりひどい人なんて、たくさんいるよ。あなたは知らないと思うけど。」
「あなたがやらないから、私もやる気がなくなっちゃっただけだよ。」
これは現実か、それとも私の妄想か、、、
私は彼女に叫びたい。
「あなたは、子供じゃない。」「私は、あなたの父親でも、先生でもない。」
「私は、あなたのパートナー・・ただ、それだけだ。」
「どうかお願いだから、一度落ち着いて、自分のしていることに気付いてほしい。
あなたの抱えている問題は、きっとあなた自身でないと、解決できない問題だから。」
そして時が過ぎ、
自分のやり方で相手の気持ちを確認できなくなった彼女は、
自分は見捨てられたと感じ、相手への攻撃に転じました。
私は、彼女の心が抱えている「何か」に対し、何もできませんでした。
>あの時のあなたへ。
>どうか、自立した大人になる勇気を持って、独りで立ち上がってみてください。。
>きっと、その向こうに新しい何かが見えるはず。
>その向こうに見える何かが気に入らなければ、元の場所に戻ることだってできるんだから。
もちろん、このような状況に至ることに気付けなかった私にも問題があります。
最後に、これだけは言っておきたい。。。
私は、人が本当に困っていれば、見返りなく手を差しのべることにしていました。
もちろん、自分がつぶれそうになってまで、他人を助けるつもりはありません。
ただ、最も恐れていること。。。
それは、
一度手を差しのべたことをきっかけとして、
あたかもそれが当然のように、相手から際限なく依存され続けることです。
これだけは、どうしようもないほど、怖いのです。。。
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もう一冊のコーチングの本は、ずっと見当たりません。気に入っていたのに、一体どこへ行ったのやら。。
今日もありがとうございました。
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